最初にもご質問させていただきましたが、当初はよかれと思って加えた取締役と意見や方向性が合わなくなったり、取締役が不正を働いたり、というケースが意外に多くありますよね……
そうですね。合議体の株式会社ですから、取締役から多様な意見が出ることは望ましいのですが、そうは言っても意見の合わない取締役に対しては入れた後に「なんか、変な人を入れちゃったなあ……」と後悔されている方も多いようです。
こういったケースの場合、定款で最長の10年までの任期なんかにしてしまったら大変なことになりますね。横領などの不正事由があれば、解任に相当する正当な理由として、株主の権限で任期満了前であっても取締役を解任することができます。しかし、法律的に正当な事由がなければ、取締役の職を解任することはなかなか難しいのです。 正当な理由はなく、どうしても解任したい場合はどうなるのでしょうか?
もし、強引に株主の権限で、任期10年まで待てずに満了前で解任した場合には、相応のリスクを負うことになるでしょう。具体的には、解任した取締役から損害賠償請求をされることが考えられます。「取締役として報酬を貰えるはずだったのものが、不当な解任によってもらえなくなったので、その分を補償しろ」と訴えられてしまうのですね。
そうなると、取締役の任期を長くすることはメリットだけではないと言えますね。
も今まで会社を興された経験がない方は実感が湧かないと思いますが、さまざまな利害関係が絡む“会社”というところには、良くも悪くも色々な人たちが集まってきます。ですから、役員の任期ひとつをとっても、「長くできるようになったのだから最大まで長くしておこう」と単純に考えるのではなく、それによって抱えるリスクなども充分に考慮する必要があるでしょう。
取締役、監査役の選任は慎重に行うべきなのですね。
そうです。「いい人だから」と安易に取締役に加えるのではなく、充分に相手の人柄やスキルを把握した後、必要であれば取締役を加えることも考えるべきでしょう。設立時に焦って取締役をたくさん入れる必要はないと思います。最初は自分だけの取締役でスタートできるわけですから。
また、これまでの株式会社とは違い、監査役についても必ずしも設置しなくてもよくなりました。もし監査役を設置するならば、本当に厳しい目でチェックをしてくれる人を監査役として入れ、内部規律、対外的な信用を保つようにするのが良いと思います。
取締役が複数いる場合、代表取締役を選定する必要がありますよね?
これまでの株式会社の場合、3名以上いる取締役の中から必ず代表取締役を選任しなければなりませんでしたが、新会社法では必ずしも代表取締役を選定する必要はなくなりました。その場合は、全員が代表取締役となります。
ただ、従来の印象からも、一般的には代表取締役を選定しておいたほうが良いと思います。機関設計によって異なるのですが、代表取締役は取締役同士の“互選”、もしくは株主総会の決議で“選定”されます。ただし、取締役の互選の場合でも、その取締役を選ぶのは結局、株主総会の権限ですから、現実的には株主に代表取締役を決める権限があると考えてもらった方がいいと思われます。
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