どのようなことを話してしまったのでしょうか? ヒアリングを受ける前には、主幹事証券会社と一応シナリオというか筋書きを決めて、利益を獲得できる理由を東証に説明する準備をしていくのですが、私の担当した会社では「Aという利益率の高い商品が市場の受けもよく、利益の増大が見込めるから公開後も十分な利益が上がりますよ」というシナリオを書いていました。その事実を、東証審査役は確認することも含めて、営業の責任者に直接聞きたいということになり、ヒアリングを実施したのですが、営業の責任者が何を勘違いしたのかAという商品は、お客様の受けが悪く、最近返品も多い」という趣旨のことを喋ってしまい、焦ったことがあります。ヒアリングの後に、東証審査役から「Aの商品は大丈夫ですよね?」と小声で聞かれましたし……。その後、Aの商品の利益率が高く、今後も売り上げが増加することを説明する資料を追加で提出させられましたね。それはとんだ話ですね……。社長についてはどんなことが具体的に聞かれますか? 簡潔に言うと社長の人格やビジョンです。 うまくいく社長像はどんなものだと思われますか? 公開関係の人はみんな儲けたがっています。ですが、自分だけ儲けようというオーナーは失格ですし、誰かに儲けさせてもらおうということでも失格です。
できるオーナーというのは、関係者の誰に、どれだけ儲けさせるかのバランスをとるのがうまい。 そうなるには、自分だけや投資家だけを見ていても駄目です。
利益の配分の作り方をバランスよく組み立てるのがうまい、つまり、従業員、取引先、主幹事証券会社、監査法人の利益配分や交通整理をうまくできないといけない。 それができるということは会社の全体がしっかりと見えているオーナーということになります。そして、見えているということは、しっかりと筋が通っているということ。金の亡者になる人は長続きしません。しっかりしているオーナーは、10年後、20年後のビジョンがあって、それを達成するためには、この人には恩を売っておかないとうまくいかない、とかをきちんと見ているんですよ。 どんなビジネスにも必要な要素ですね。 非公開の会社でも、従業員に分配するのか、自分で利益を取るのか、利益率を下げて得意先のためにまけるのかを考える必要があるでしょう。とにかく、バランスをとるのがうまい人っていうのは強いですよね。基本的に、企業なわけで人間よりも継続していくわけですから、先を見て、バランスをとっているオーナーっていうのはいいですよね。 そういった資質がなかったらどうすればいいのでしょうか。 ない場合は、ある人を集めればいいんです。 集めるためにはどうしたらいいでしょうか? ビジョンをしっかり話せる人であれば、話を聞いてもらえるでしょう。私もそういう人なら話を聞きますから。 最近の起業家の方は、熱いビジョンがあっても、その間を埋めるプロセスが苦手だったり、細かいことができなかったりしますけど…… ビジョンを作ることはオーナーしかできませんが、内部統制はオーナーでなくてもできます。一番良いのは、ビジョンに賛同してくれた人を内部に入れることですね。以前は、公開前の内部統制作りや仕事の流れを外部に任せるのはご法度でしたが。 確かに途中で引き上げられたら終わりですよね。 コアな部分を外部に出すのは危険があるように思います。 コアな部分を外注に依頼していたとして、外注に何かあると会社の根幹に影響が出るから良くないという話ですね。最近では、専門家に入ってもらうのが手っ取り早いですが、本質論からすると、そういう人に内部に入ってもらって、同時にコアな部分が内部にでき上がっていくと筋力がついてきますね。ですから、
コアな部分を外部の方にお願いするのであれば、社内の方と連携で、内部にノウハウを落としてもらうようにお願いすることですね。
|