起業家の方が成長し、事業拡大時期に突入したと同時に、人を雇い入れるステージにも入るわけですが、新卒を採用する場合、どうしても一から教えてあげないといけないので、それよりも経験豊富な中途採用の方が即戦力にもなり、有利ではないかと考えてしまう傾向にあるようです。ワイキューブさんでは、中途採用よりも新卒採用を推奨されているようですが、起業家の方にもその考え方はあてはまるのでしょうか?
若い頃はそのように考えるのは仕方がないかもしれませんね。ただ、そういう風に考えるようでは社長には向いていないと思います。
どうしてでしょう?
新卒の人材を必ず誰かが育てているわけでしょう。誰かが育てているなら、俺が育ててやろうという気概の人でないとダメだと思います。面倒臭いから誰かが育てた人材を戦力になってからもらおうなどという社長は大成しないでしょう。人を育てようと思わない人に経営なんてできないと思いますよ。
なるほど、安田社長が考える人を育てるポイントを教えてもらえますか?
僕は、自分が育てた人材ではないと、自分の会社の事業では使えないし、人生を共有できないと思っています。例えば、ものすごく頭が良く、人間性も良く、自分になついてくれる子を、突然「これはあなたの子供です」と言われてうれしいですか? 出来が悪くても、自分で育てて、血が繋がっていることの方が大事だと思います。やっぱり生まれた時から一緒に苦労しているからこその楽しさじゃないですか。いきなり出来の良い東大に入れるような息子ができても全然うれしくありませんし、なぜ欲しいと思うのかがわからないですね。もちろん出来が悪いからかわいいいってことじゃないですよ、出来が良い方がもちろんいいですが(笑)。
確かにそうですよね。ただ、新卒の学生は大企業に採用されるイメージがあって、名もない中小零細企業に入社しようと思ってくれるのかなと考えてしまいますが……。
そんなことないと思いますね。みんなが勝手に思っているだけじゃないですか。
先入観ということですか?
そうです。リクルート出身者に成功する人が多いのは新卒採用をするからですよ。新卒一人を採用するのに平気で300万円もかけられるからです。もし、僕がリクルート出身でなければ新卒採用なんて知らなかったと思いますが。
その価値を見出したのはすごいですね。
優秀な人の中には転職する人もいますけれど、ここはアメリカじゃなくて日本なので、基本的にできる人は辞めないんですよ。だから、新卒40万人の上位1割くらいを最初に捕まえた会社が勝つわけです。その中の人を転職させて、その人たちだけで組織を作るといっても20??30人を集めるのが限界でしょう。100人を超える会社を中途採用で作ろうと思ったら、日本では無理です。野球で言えば、ドラフトに一切出ないで、トレードでしかチームを作らないと言っているようなものですから。育てる気がまったくないわけですから、そんなのはチームとしては成り立たないわけです。
若い人は勢いがあってすごくいいですが、チームを統率できる能力や社会における倫理観など、そういったことに絡む仕事に関しては、ある程度の年配者や経験されている方を、と思ってしまいますが、そのあたりはどうでしょう?
そういうことは役員に任せればいいんです。それに倫理という意味では「若いから倫理がない」「経験があるから倫理がある」ということはないと思います。みんな錯覚しているんですね。例えば、営業を10年やっている人が営業を1年やっている人よりできるって思い込んでいるだけ。もしそうだったら、世の中で営業を10年やっている人はみんな営業ができるってことじゃないですか。実際にはそうでないことの方が多いですよね。
そう考えると、資質を持っている人材をゼロから育て上げる方がいいということですね。
その方が早いんですよ。ゴルフも自己流で10年やっている人よりも、やったことない人の方が教えやすい。それと一緒だと思うんです。自己流でやりながら完璧なフォームですごいスコアで出す人を即戦力で採れたらいいですけど、そんなことはありえない。それを証拠に、中小企業は「いい人が欲しい」と言いながら、全然採れていない。大企業でも新卒を採用して、育てているわけじゃないですか。それなのに、どうして中小企業が大企業でさえ採れない即戦力となる人材を採れるのか? 新卒でさえ採れないと思っている会社が、なぜ即戦力を中途で採れると思うのかが理解できないです。例えば、上場企業で営業の責任者をやっていた人が中小企業に移って喜んで課長をやりますか?
よほどの事情がない限りやらないでしょうね。
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