法人成りでやることを順番に、個人事業の廃業届から会社設立後の届出・資産の引き継ぎまで

法人成りでやることは、個人事業を閉じる届出、会社の設立後の届出、契約・許認可・口座の切替、事業用の資産の引き継ぎの4系統で、期限が決まっている届出から順に片づけます。
| 手続き | 提出先 | 期限 |
|---|---|---|
| 個人事業の開業・廃業等届出書 | 税務署 | 廃業した年分の所得税の確定申告期限まで |
| 所得税の青色申告の取りやめ届出書(青色申告だった人) | 税務署 | 取りやめる年分の確定申告期限まで |
| 事業廃止届出書(消費税の課税事業者、インボイス登録事業者) | 税務署 | 速やかに |
| 給与支払事務所等の廃止届出書(人を雇っていた人) | 税務署 | 廃止から1か月以内 |
| 個人事業税の事業廃止の申告 | 都道府県(東京都は都税事務所) | 廃止から1か月以内 |
| 法人設立届出書(定款の写しを添付) | 税務署 | 設立日以後2か月以内 |
| 青色申告の承認申請書 | 税務署 | 設立日以後3か月を経過した日と1期目の末日のうち早い日の前日まで |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 税務署 | 開設から1か月以内 |
| 適格請求書発行事業者の登録申請書(設立時から登録する場合) | 税務署 | 1期目の末日まで |
| 健康保険・厚生年金保険の新規適用届 | 年金事務所または事務センター | 事実発生から5日以内 |
法人成りの手続きは、会社を設立して終わりではありません。既に売上や取引先がある個人事業主の場合、個人事業の廃業の届出、取引先との契約や振込先の切替、許認可の取り直し、設備や在庫の会社への移し替えが、会社の届出と同じ時期に重なります。順番を誤ると、会社の口座ができる前に取引先へ振込先の変更を伝えてしまったり、許可が下りるまで会社で営業できなくなったりします。この記事では、2026年10月時点の国税庁などの案内をもとに、法人成りでやることを4系統に分け、どの順番で進めるかを整理します。会社の設立手続きそのものは法人設立の手続き・法人の形態を参照してください。
最初に「会社へ移すもの」を書き出す
手続きに入る前に、個人事業で使っているものを洗い出し、会社へ移すか、個人に残すか、やめるかを決めます。
- 売上の契約:取引先との基本契約、継続中の案件、請求先の情報
- 仕入と支払い:仕入先、外注先、リース、サブスクリプション、各種の会員契約
- 場所:事務所や店舗の賃貸借契約、駐車場
- お金:事業用の口座、クレジットカード、決済サービス、借入
- 許認可と登録:業種の許可や届出、インボイス登録
- 資産:設備、車、パソコン、在庫、ソフトウェア
- 人:従業員、外部スタッフ
- 名前と窓口:屋号、ウェブサイト、ドメイン、電話番号、SNSのアカウント
あわせて「この日から会社の取引にする」という切替日を決めます。切替日より前の売上と経費は個人、後は会社と線を引くと、個人の最後の確定申告と会社の1期目の帳簿を分けやすくなります。
事業用の資産を会社へ移す
移し方は3通り
| 方法 | 内容 | 気をつける点 |
|---|---|---|
| 売買 | 会社が個人から買い取る | 時価を基準に値段を決める。個人の側で譲渡の所得や、課税事業者なら消費税が生じることがある |
| 賃貸 | 個人が持ったまま会社に貸す | 賃料は相場に合わせる。社長個人には不動産所得などとして申告が必要になる |
| 現物出資 | 資本金として会社に出す | 定款に書いた価額の総額が500万円を超えると、原則として裁判所が選ぶ検査役の調査が必要になる |
在庫は売買で会社へ移すのが分かりやすい方法です。売掛金と買掛金は、個人のうちに回収と支払いを済ませて個人の帳簿で締めると、どちらの取引かの区切りがはっきりします。
個人に残す資産と消費税
消費税の課税事業者が事業をやめると、会社に移さずに手元に残した車などの事業用資産は、廃業の時点で自分のために使ったものとみなされ、時価(一般的には未償却残高)で消費税の対象になります。会社に移すのか、個人の生活用にするのかを、廃業の前に決めておきます。
借入は金融機関と相談する
個人で借りている事業資金は、自動的には会社に移りません。会社が引き継ぐのか、個人で返済を続けるのかは、借入先の金融機関と相談して決めます。
契約・許認可・口座を切り替える
取引先との契約
個人と会社は別の当事者なので、契約は会社と新しく結び直すか、相手の同意を得て契約上の立場を会社に移します。請求書の宛名、振込先、インボイスの登録番号も変わるので、切替日と一緒に取引先へ早めに伝えます。取引先によっては、登記事項証明書などの提出を求められます。
事務所・店舗の賃貸借
賃貸借契約の名義を会社に変えるには、貸主の同意が必要です。自宅を事務所にしている場合の扱いは事務所・本店所在地のカテゴリーで整理しています。
許認可は原則として取り直す
個人に出た許可や届出は、その人に対するものなので、会社で営業するには会社として取り直すのが原則です。業種によっては引き継ぎの仕組みもあり、たとえば建設業許可は、事前に認可を受ければ事業の譲渡とともに会社へ引き継げます。国土交通省関東地方整備局の手引きでは、個人から法人への法人成りも対象とされ、承継予定日の90日前までに申請するよう示されています。許可が下りるまで会社で営業できない期間が生じないよう、業種ごとに早めに確認してください。業種別の許認可は許認可のカテゴリーにまとめています。
口座・カード・インボイス登録
法人口座は設立登記が終わってから申し込み、審査に日数がかかります。取引先へ振込先の変更を伝えるのは、口座が開いてからにします。カードや決済サービスも会社名義で申し込み直します。インボイスの登録は個人のものを会社に移せないので、会社として登録申請を出します。設立時から登録するなら、1期目の末日までに申請すれば設立日から登録を受けられます。口座の準備は法人口座・お金の管理のカテゴリーを参照してください。
個人事業を閉じる
廃業の届出は冒頭の表のとおりです。個人事業の開業・廃業等届出書は、2026年10月時点の国税庁の案内では、廃業した年分の所得税の確定申告期限までに出します。消費税の事業廃止届出書は、インボイス登録事業者が事業をやめるときもこの届出書で登録が取り消されます。
廃業した年は、1月1日から廃業日までの事業の所得を、翌年の確定申告で申告します。消費税の課税事業者なら、廃業した年の消費税の申告も必要です。個人事業税は、所得税の確定申告とは別に、廃業から1か月以内に都道府県へ申告します。
社会保険は、会社の健康保険・厚生年金に入ると、国民年金はその加入にあわせて切り替わります。国民健康保険は市区町村で脱退の手続きをするので、会社の健康保険の資格を得た後に届け出ます。
会社の設立後の届出を出す
会社の届出は、税務署のほか、都道府県と市区町村(法人設立の届出)、年金事務所に出します。都道府県と市区町村の届出の期限は自治体ごとに決まっているので、本店のある自治体の案内で確かめます。提出先ごとの一覧は会社設立後の手続き一覧に、税務署へ出す届出の選び方は税務署への届出の記事にまとめています。最初の90日間の流れは設立後90日チェックリストでも確認できます。
役員報酬は、原則として事業年度の初めから3か月以内に額を決めます。個人事業の従業員を会社で雇う場合は、会社として雇用保険や労災保険の手続きが必要です。手順は社会保険・労働保険のカテゴリーを参照してください。
移行期間の帳簿を分ける
切替日の前後は、個人の口座に会社の売上が入る、会社の経費を個人のカードで払う、といった混ざり方が起きやすい時期です。会社の取引は会社の帳簿に、個人の取引は個人の帳簿に入れ、立て替えた分は精算の記録を残します。資産の移し方や個人と会社の税金の切り分けで判断に迷うときは、設立前に税理士へ確認しておくと手戻りが減ります。相談の考え方は税理士コンシェルジュの起業時の解説を参照してください。全体の流れは法人成りの全体像で確認できます。
よくある質問
個人事業の契約や許認可はそのまま会社に引き継げますか?
契約も許認可も、原則としてそのままでは会社に引き継げません。個人と会社は別の当事者で、契約や許可は個人に対して結ばれたり出されたりしているためです。契約は会社と結び直すか、相手の同意を得て契約上の立場を会社に移します。許認可は会社として取り直すのが原則ですが、建設業許可のように事前の認可で事業の譲渡とともに引き継げる業種もあります。許可が下りるまで会社で営業できない期間が出ないよう、業種ごとの扱いを早めに確認します。
個人事業の廃業届はいつ出せばいいですか?
個人事業の開業・廃業等届出書は、廃業した年分の所得税の確定申告期限までに税務署へ出します。2026年10月時点の国税庁の案内による期限です。ただし、ほかの届出には別の期限があり、消費税の課税事業者やインボイス登録事業者の事業廃止届出書は速やかに、人を雇っていた場合の給与支払事務所等の廃止届出書は廃止から1か月以内です。個人事業税の廃止の申告も、廃業から1か月以内に都道府県へ出します。切替日が決まったら、まとめて準備します。
個人で使っていた車や設備は会社に移すべきですか?
会社の事業で使い続けるなら、売買などの方法で会社へ移しておく方が帳簿の扱いがはっきりします。移し方には、会社が買い取る売買、個人が持ったまま貸す賃貸、資本金として出す現物出資があります。現物出資は定款に書いた価額の総額が500万円を超えると、原則として検査役の調査が必要です。消費税の課税事業者が会社に移さず手元に残すと、廃業の時点で自分のために使ったものとみなされ、時価で消費税の対象になる点にも気をつけます。
