法人成りのメリットは税率だけではない、会社設立で使える制度と信用・資金面の変化

大きさの違う2つの白いビルの模型と、ひもで綴じた書類の束

法人成りのメリットは、所得を役員報酬と会社の利益に分けて税負担を調整できること、役員退職金や長い赤字の繰越など会社だけの制度を使えること、取引・資金調達・採用で法人として扱われることの3つで、どれも条件がそろったときに効きます。

法人成りのメリットとして真っ先に挙がるのは節税ですが、会社にすれば自動的に税金が減るわけではありません。効き目が出るのは、利益の分け方を設計したときや、会社にしかない制度を使ったときです。また、税金とは別に、取引先や金融機関、採用の相手から「会社」として見られることで開く道もあります。この記事では、既に売上や取引がある個人事業主が法人成りしたときに得られるメリットを、税金、会社だけの制度、対外的な信用の3つに分け、それぞれがどんな条件で効くのかを国税庁の資料をもとに整理します。負担の側面は法人成りのデメリットに分けているので、あわせて読んでください。

所得を分けて、高い税率がかかる部分を減らせる

個人事業では、事業の所得の全体に所得税の累進税率がかかります。課税される所得が900万円以上の部分は33%で、住民税や個人事業税も加わります。会社にすると、同じ利益を「社長の役員報酬」と「会社に残る利益」に分けられ、会社に残した利益は資本金1億円以下の会社なら年800万円までの部分が15%です。高い税率の帯に入る部分を減らせることが、税金面の中心のメリットです。

役員報酬には給与所得控除が使える

社長が会社から受け取る役員報酬は給与所得になり、給与所得控除を差し引けます。2026年分と2027年分は、収入220万円までなら74万円、850万円を超えると上限の195万円です。個人事業の所得にはこの控除がないため、同じ金額でも課税される所得が小さくなります。

実際に働く家族に報酬を払える

配偶者などの家族が実際に事業を手伝っているなら、役員や従業員として、仕事の中身に見合う報酬を払えます。所得を家族に分けることで、一人に集中していたときより低い税率で済む場合があります。ただし、働いた実態がない家族への支払いや、仕事に比べて高すぎる報酬は経費として認められません。

効き目は期首の設計で決まる

役員報酬は、原則として事業年度の初めから3か月以内に額を決め、その期は毎月同じ額を払う定期同額給与にする必要があります。期の途中で利益が増えたからといって報酬を上げても、その分は会社の経費になりません。所得の分け方のメリットは、期首にどこまで見通しを立てられるかで決まります。組み立て方は設立1期目の役員報酬の決め方で扱っています。

会社だけが使える制度

役員退職金を用意できる

個人事業主は自分に退職金を払えませんが、会社は社長が退任するときに役員退職金を払えます。会社では原則として経費になり、受け取る社長の側では退職所得として、収入から退職所得控除を引いた額の2分の1に課税されます。ただし、役員としての勤続年数が5年以下の場合は2分の1にする計算が使えないため、早い時期の退任では効果が小さくなります。

赤字を10年繰り越せる

青色申告をしている会社は、ある事業年度の欠損金(赤字)を、その後10年間の所得から差し引けます。個人事業の純損失の繰越は3年なので、設備投資などで大きな赤字が出る年がある事業では、会社の方が赤字を無駄にしにくくなります。

決算期を選べる

個人事業の会計期間は1月1日から12月31日に固定されていますが、会社は事業年度を自由に決められます。繁忙期と決算が重ならない時期を選べば、決算の準備や、翌期の役員報酬を決める作業に時間を割けます。

消費税の免税は条件つき

資本金1,000万円未満で設立した会社は、条件を満たせば最初の2期は消費税の納税が免除されます。ただし、インボイス登録をしていると免除されないため、事業者向けの取引が中心の人にはあまり当てはまりません。判定の条件は法人成りのタイミングで確認してください。

取引・資金調達・採用で法人として扱われる

取引の入口が広がる

取引先の中には、法人とだけ取引口座を開く会社や、法人であることを発注の条件にする会社があります。会社には法人番号が付き、商号や本店所在地が公表されるので、相手が実在を確かめやすくなります。

資金の集め方が増える

融資の審査では、会社の決算書と社長個人のお金が分かれていることで、事業の実力を説明しやすくなります。さらに株式会社なら、株式を発行してほかの人から出資を受けることもできます。個人事業にはない資金の集め方です。創業期の融資の使い方は創業融資の記事にまとめています。

採用で条件を示しやすい

会社は健康保険・厚生年金の適用事業所になるので、社会保険に加入できる職場として求人を出せます。人を増やしていく予定がある事業では、採用の場面で差が出ます。

社長自身の保障が厚くなる

会社の健康保険と厚生年金に入ると、保険料の負担は増えますが、社長本人の保障も変わります。厚生年金に加入した期間の分だけ、将来は国民年金に上乗せした年金を受け取れます。健康保険には、病気やけがで働けない間の傷病手当金など、国民健康保険には通常ない給付があります。保険料の重さだけでなく、受けられる給付の違いも比べる材料になります。

責任の範囲と事業の引き継ぎ

株式会社や合同会社では、出資者の責任は原則として出資した額までです。ただし、融資で社長個人が連帯保証人になれば、その借入は個人の責任として残ります。また、事業を株式という形で持つことで、将来、家族への承継や第三者への譲渡を株式の移転で進められます。

メリットが出やすい人と出にくい人

メリットが出やすいメリットが出にくい
利益が安定して高く、所得税の高い帯に入っている利益が少ない、または年によって大きく上下する
家族が実際に事業で働いている利益の大半を毎年の生活費に使う
取引先が法人中心で、法人であることを求められている取引先が個人客中心で、法人である必要がない
人を雇う予定がある、融資や出資を受けたい記帳や給与計算を担う人がいない

右の列に多く当てはまる場合、メリットより負担の方が大きくなりがちです。どの程度の差が出るかは、役員報酬の額と社会保険料を入れて試算しないと分かりません。法人成りでの税理士の関わり方は税理士コンシェルジュの法人成りの解説を参照してください。全体の流れは法人成りの全体像で確認できます。

よくある質問

法人成りすると必ず節税になりますか?

必ず節税になるとは限りません。会社に残した利益は低い税率で済みますが、社長が受け取る役員報酬には個人の所得税と住民税がかかり、さらに会社と本人の両方に社会保険料がかかるためです。利益が少ない段階では、赤字でもかかる均等割や事務の費用も含めると、個人のままの方が負担が軽いこともあります。節税になるかは、役員報酬をいくらにして会社にいくら残すかを何通りか試算し、税金と保険料の合計で比べて判断します。試算は期首の前に行います。

家族に役員報酬を払えば節税になりますか?

家族が実際に事業で働いていて、仕事に見合う額を払うなら、所得が分散されて税金が下がることがあります。一人に所得が集中していると高い税率がかかる部分が増えますが、家族に分ければそれぞれ低い税率で済む場合があるためです。ただし、働いた実態がない家族への支払いや、仕事の中身に比べて高すぎる報酬は、会社の経費として認められません。家族も報酬の額によって社会保険の対象になるので、保険料の負担も含めて額を決めます。

個人事業の赤字は会社に引き継げますか?

個人事業で出た赤字は、法人成りしても会社には引き継げません。個人と会社は別の納税者で、個人の純損失は個人の所得から差し引く仕組みだからです。青色申告をしていた個人の純損失は、要件を満たせば翌年以後3年間、社長個人のほかの所得から差し引ける場合があります。一方、会社の欠損金は青色申告なら10年間繰り越せます。大きな赤字が見込まれる時期をどちらで迎えるかも、法人成りの時期を決める材料になり、赤字が続く見込みの間は急がない判断もあります。

株式会社タックスコム 代表取締役 山下健一

執筆|株式会社タックスコム 代表取締役

山下 健一

日本で唯一、税理士業界を3方向(お客様の声、帳簿の中身、事務所の内情)から見てきた税理士コンシェルジュ

税理士紹介を20年。税理士を探す社長の声を、今も聞き続けています。帳簿の中身は経理の代行で、事務所の内情は1,600名以上の所長面談で見てきました。税理士でも会計士でもない第三者だから話せる裏側を、お伝えします。

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