法人成りとは何か、個人事業から会社設立へ移るときの判断軸と進め方の全体像

大きさの違う2つの白いビルの模型と、ひもで綴じた書類の束

法人成りは、税率の差だけでなく社会保険・消費税・取引先の事情を合わせて判断し、決めたら設計、設立、事業の移し替え、個人事業の廃業の順に進めます。

法人成りとは、個人事業主が会社を設立し、それまで個人で営んできた事業を会社へ移すことです。すでに売上や取引先があるので、ゼロから会社をつくる場合と違い、個人事業の廃業、契約や口座の切替、事業用の資産の引き継ぎといった「移す作業」が加わります。判断を誤りやすいのは、節税の話だけで決めてしまい、社会保険料や事務の増え方を後から知るケースです。このページでは、法人成りで何が変わるのか、判断に使う4つの軸、手順の全体像を1ページで見渡せるようにまとめました。詳しい論点は、タイミング、メリット、デメリット、やることの4本に分けています。まず全体をつかみ、自分に関係する記事から読み進めてください。

法人成りで起きることを一言でいうと

個人事業と会社は、法律上は別の「人」です。法人成りをすると、事業の売上・契約・資産は会社のものになり、個人事業主だった本人は会社の社長(株式会社なら代表取締役、合同会社なら代表社員)として、会社から役員報酬を受け取る立場に変わります。

個人事業をそのまま会社へ「変更」する手続きはありません。会社を新しく設立する手続きと、個人事業を廃業する手続きを組み合わせて行います。このため、会社の最初の届出と、個人としての最後の確定申告が同じ時期に重なります。

個人事業と会社で変わる5つのこと

項目個人事業会社
利益にかかる税金事業の所得に所得税(所得が増えるほど税率が上がる累進課税)・住民税・個人事業税会社の所得に法人税などがかかり、社長は受け取った役員報酬に所得税・住民税を払う
社会保険国民健康保険・国民年金健康保険・厚生年金(社長1人の会社でも対象)
消費税前々年の売上などで納税するかを判定設立当初は資本金、設立後6か月の売上と給与、インボイス登録の有無で判定
お金の出し入れ事業の利益をそのまま生活費に回せる決めた役員報酬を毎月受け取る。会社のお金は会社のもの
事務と申告所得税の確定申告(青色申告なら帳簿と決算書)決算書と法人税の申告、給与計算、源泉徴収、社会保険の届出が加わる

どの変化が得になり、どれが負担になるかは、利益の額や家族構成、取引先の顔ぶれで変わります。同じ売上でも、結論が人によって逆になるのが法人成りの判断です。

判断に使う4つの軸

税率の段差

個人の所得税は累進課税で、課税される所得が900万円以上の部分は33%になります。会社の法人税は、資本金1億円以下の会社なら所得のうち年800万円までの部分が15%、超える部分が23.2%です。「利益800万円が法人成りの目安」という話はこの区切りから来ていますが、実際は役員報酬を受け取った後の個人の税金と、会社と本人が払う社会保険料を合わせて比べるため、ひとつの数字では決まりません。

消費税の扱い

新しく設立した会社は、条件を満たせば最初の2期は消費税の納税が免除されることがあります。ただし、インボイス(適格請求書)の発行事業者として登録している間は免除されません。取引先が事業者中心で登録が欠かせない事業では、この利点はほとんど使えません。

社会保険の負担

会社の健康保険・厚生年金は、保険料を会社と本人が半分ずつ負担します。国民健康保険と国民年金から切り替わると、受けられる給付が増える一方で、毎月出ていく額は増えることが多くなります。

取引先・融資・採用の事情

法人でないと取引口座を開けない取引先や、法人であることを条件にする許認可・入札があります。採用や融資の場面で会社であることが効く業種もあります。税金の損得とは別に、外から期限が決まる軸です。

4つの軸の具体的な見方と、時期の決め方は法人成りのタイミングで、数字を交えて整理しています。

メリットとデメリットは同じ数字で比べる

会社にすると、役員報酬に給与所得控除が使える、実際に働く家族に報酬を払える、役員退職金を用意できる、赤字を10年繰り越せる、といった会社ならではの制度が使えます。詳しくは法人成りのメリットにまとめました。

反対に、社会保険料の増加、赤字でもかかる住民税の均等割、決算や給与計算の事務、会社のお金を自由に引き出せないことは、設立した月から続く負担です。こちらは法人成りのデメリットで扱っています。

どちらか片方だけを読むと判断が偏ります。今の利益と、予定している役員報酬の額という同じ前提で、両方を見比べてください。

法人成りの進め方は5段階

  1. 設計を決める:株式会社か合同会社か、資本金、決算期、役員報酬の見込み、会社へ移す資産と契約を決めます。
  2. 会社を設立する:定款をつくり、資本金を払い込み、法務局に設立登記を申請します。
  3. 会社の届出を出す:税務署、都道府県、市区町村、年金事務所へ設立後の届出を出します。
  4. 事業を移す:取引先との契約、口座、許認可、資産や在庫を会社へ切り替えます。
  5. 個人事業を閉じる:廃業の届出を出し、その年の分の確定申告をします。

3から5は並行して進むことが多く、移行期間には個人と会社の両方に入金や支払いが残ります。どの取引をいつから会社名義にするか、日付で線を引いておくと、後の帳簿の整理が楽になります。期限のある届出と切替の細目は法人成りでやることに、設立の手続きそのものは法人設立の手続き・法人の形態に、会社の届出は届出のカテゴリーにまとめています。

株式会社と合同会社のどちらにするか

法人成りでは、株式会社か合同会社を選ぶのが一般的です。設立登記の登録免許税は、どちらも資本金の1,000分の7ですが、最低額が株式会社は15万円、合同会社は6万円です。株式会社は公証役場での定款の認証も必要になります。費用だけでなく、取引先や金融機関からの見え方、将来ほかの人から出資を受けるかどうかも含めて選びます。

設立前に決めておきたい2つの担い手

法人成りで増える手間は、税金の設計と日々の経理の2つに分かれます。

税金の設計は、役員報酬の額、消費税の扱い、資産の移し方などで、設立日や決算期の決め方によって結果が変わります。役員報酬は事業年度の途中で自由に変えられないため、設立前に一度試算しておくのが安全です。税理士に相談するときの考え方は税理士コンシェルジュの起業時の解説にまとめています。

日々の経理は、請求書の発行、入金の確認、記帳、給与計算などです。取引の多い事業ほど、法人成りの直後に個人と会社の帳簿が混ざって詰まりやすくなります。会計ソフトを切り替えるか、誰が記帳するかを、設立前に決めておいてください。

よくある質問

法人成りと普通の会社設立は何が違いますか?

会社を設立する手続きそのものは同じで、違うのは既にある事業を会社へ移す作業が加わる点です。具体的には、個人事業の廃業の届出、取引先との契約や振込先の切替、事業用の資産や在庫の引き継ぎ、許認可の取り直し、個人としての最後の確定申告があります。売上が途切れないよう、会社へ移す日を先に決め、その日に向けて取引先への連絡や口座の準備を進めます。個人と会社の取引が混ざりやすい移行期間の扱いも、あらかじめ決めておくと安心です。

個人事業を残したまま会社を作ってもいいですか?

別の事業であれば、個人事業を続けながら会社を持つことはできます。ただし同じ事業を個人と会社の両方で続けると、売上や経費がどちらのものかを区別しにくく、税務署に説明を求められたときに困ります。両方を残す場合は、事業の中身、取引先、口座、帳簿をはっきり分けます。法人成りの目的が事業全体を会社へ移すことなら、移す日を決めて個人事業は廃業し、個人の確定申告はその日までの分で締めるのが分かりやすい進め方です。

法人成りの相談はいつ始めればいいですか?

会社を設立する前、遅くとも決算期と役員報酬の額を決める前に始めるのが安全です。役員報酬は原則として事業年度の初めから3か月以内に決め、その期は毎月同じ額にする必要があるため、設立後に考え始めると選べる幅が狭まります。消費税の扱いや、個人の資産をどの方法で会社へ移すかも、設立日によって結果が変わります。設立日の候補が出た段階で、今の利益をもとに会社と個人の税金と社会保険料を一度試算しておくと、判断がぶれにくくなります。

株式会社タックスコム 代表取締役 山下健一

執筆|株式会社タックスコム 代表取締役

山下 健一

日本で唯一、税理士業界を3方向(お客様の声、帳簿の中身、事務所の内情)から見てきた税理士コンシェルジュ

税理士紹介を20年。税理士を探す社長の声を、今も聞き続けています。帳簿の中身は経理の代行で、事務所の内情は1,600名以上の所長面談で見てきました。税理士でも会計士でもない第三者だから話せる裏側を、お伝えします。

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