設立1期目の役員報酬はいくらにする?法人税・所得税・社会保険料で決める手順

白紙のページが開いた帳簿と電卓、ペン、コインの山

設立1期目の役員報酬は、会社に残す現金を先に確保し、生活費から下限を決め、法人税・所得税・社会保険料の合計で3つの案を比べて月額を1つに絞ります。

設立したばかりの会社は、売上の実績がないまま役員報酬をいくらにするかを決めなければなりません。しかも1期目は、設立日から3か月を経過する日までに決めた月額を、原則としてその期の終わりまで変えられません。高すぎれば会社の現金が細り、低すぎれば会社に利益が残って法人税がかかり、社長の生活費も足りなくなります。この記事では設立1期目に絞って、月額を決める順番、法人税・所得税・社会保険料がどう動くか、1期目ならではの注意点を整理します。決める期限と議事録の作り方は設立後、役員報酬をいつまでに決めるかで扱っています。

1期目の月額を決める順番

「いくら欲しいか」から決めると、先に会社の現金が足りなくなります。次の順番で考えると、無理のない月額に落ち着きます。

会社に残す現金を先に決める

1期目の決算で払う税金の見込みと、売上の入金が遅れても家賃や外注費を払える運転資金を、会社に残す前提にします。どれだけ残すかは業種や取引条件で変わりますが、残す額を先に決めておけば、役員報酬に回せる上限が見えます。

生活費から下限を決める

家賃、食費、保険、ローンなど、毎月の生活に要る額を手取りで出します。手取りは、役員報酬から所得税・住民税と社会保険料の本人負担を引いた額です。社会保険料の本人負担だけで報酬の約14から15%になるため、生活費の額をそのまま報酬にすると手取りが足りません。

3つの案で合計の負担を比べる

上限と下限の間で、低め・中間・高めの3案を作ります。それぞれについて、会社の法人税と、社長個人の所得税・住民税・社会保険料を合計し、会社の現金と生活費の条件を満たす案の中から合計が小さいものを選びます。

報酬を上げ下げすると税金はどう動くか

役員報酬は、定期同額給与として払えば会社の損金になります。報酬を上げると会社の利益が減って法人税が下がり、代わりに社長個人の所得税・住民税が上がります。負担が会社から個人に移るので、どちらの税率が高いかで有利・不利が分かれます。

法人税の税率

資本金1億円以下の普通法人の所得法人税率
年800万円以下の部分15%
年800万円を超える部分23.2%

このほかに法人住民税・事業税などの地方税がかかります。2026年4月1日以後に始まる事業年度からは防衛特別法人税も加わりましたが、法人税額から年500万円を差し引いた額に4%をかける仕組みなので、設立1期目の小さな会社が対象になることはまれです。

所得税の税率

所得税は所得が増えるほど税率が上がる仕組みで、5%から45%まで7段階あります。課税される所得が195万円未満なら5%、330万円以上695万円未満なら20%、900万円以上1,800万円未満なら33%です。役員報酬には会社員と同じ給与所得控除があるため、報酬の全額に税率がかかるわけではありません。

大まかな傾向として、会社の所得が年800万円以下で法人税率15%の範囲に収まっているうちに報酬を増やし、社長個人の税率が20%、33%と上がっていくと、個人で払う税金の方が重くなりやすくなります。反対に、個人の税率が低い範囲で会社に利益が多く残るなら、報酬を上げた方が合計は下がりやすくなります。

社会保険料を入れると答えが変わる

税金だけで比べると、社会保険料を見落とします。設立時から報酬を払えば社長1人でも健康保険・厚生年金に入り、保険料は会社と本人の合計で報酬の約3割です。会社負担分も損金になりますが、会社から現金が出ていくことに変わりはありません。

たとえば東京都の会社で、40歳未満の社長の報酬を月30万円にすると、2026年度の料率で保険料は労使合計で月8万6千円ほど、うち本人負担は4万2千円ほどです。報酬を上げると税金だけでなく保険料も増えるので、3つの案の比較には必ず保険料を入れます。料率と計算の中身は設立時の役員報酬と社会保険料にまとめています。

設立1期目に特有の落とし穴

1期目が赤字なら報酬で法人税は減らない

1期目は設備や広告の支出が先に出て、赤字で終わる会社も珍しくありません。赤字の会社には所得にかかる法人税が出ないので、報酬を上げても法人税は減らず、個人の税金と保険料だけが増えます。赤字が見込まれるなら、生活費を賄える範囲で低めに決めるのが基本です。青色申告の承認を受けていれば、その赤字は翌期以降の利益と相殺できます。

期中に上げられない前提で決める

期限を過ぎてから業績が伸びても、1期目の途中で報酬を上げることは原則できません。予想を上回った利益は会社に残り、法人税の対象になります。売上の見通しが固まらないうちは、上振れしたら2期目の期首に見直すと割り切って、1期目は無理のない額にしておく方が失敗は少なくなります。2期目以降の見直しの考え方は税理士コンシェルジュの役員報酬の解説を参照してください。

低すぎる報酬にも負担がある

報酬を低く抑えすぎると、生活費が足りずに会社からお金を借りる形になりがちです。社長への貸付は決算書に残り、融資の審査で説明を求められることがあります。また厚生年金の保険料には下限があり、報酬が月9万3千円未満なら8万8千円として計算されるため、報酬に対する保険料の割合はかえって重くなります。

試算を誰に頼むか

3つの案の比較には、給与所得控除、社会保険料控除、家族の扶養、住民税、事業税などが絡み、手計算では誤差が出ます。1期目から年商1,000万円以上を見込む会社は、月額の決め方で税と保険料の合計が大きく変わるため、株主総会で決議する前に税理士に試算してもらう価値があります。税理士の選び方や顧問料は税理士コンシェルジュで確認できます。

よくある質問

設立1期目の役員報酬に相場はありますか?

1期目の役員報酬に、どの会社にも当てはまる相場はありません。同じ売上でも、経費の大きさ、会社に残す現金、社長の生活費、家族構成で合う月額が変わるためです。会社に残す現金を先に確保し、生活費から下限を決め、法人税・所得税・社会保険料の合計で3つの案を比べて決めます。平均額に合わせて決めると、会社の現金が足りなくなったり、生活費が不足したりする原因になります。売上の見通しが立たない1期目は、上振れしたら2期目に見直す前提で低めに決める方が安全です。

役員報酬を高くすれば節税になりますか?

高くすれば必ず節税になるわけではありません。報酬を上げると会社の法人税は下がりますが、社長個人の所得税・住民税と、労使合計で報酬の約3割かかる社会保険料が増えます。所得800万円以下の部分の法人税率は15%なので、個人の所得税率が20%以上になる範囲まで報酬を上げると、合計の負担は増えやすくなります。1期目が赤字なら、報酬を上げても法人税はそもそも減りません。3つの案で合計の負担を比べてから決めてください。

1期目の途中で利益が増えたら報酬を上げられますか?

原則として上げられません。設立日から3か月を経過する日を過ぎてから増額すると定期同額給与の要件から外れ、払った額の一部が損金になりません。期限後に変えられるのは、役職や職務の内容が大きく変わった場合などに限られます。予想を上回った利益は会社に残して法人税を払い、2期目の期首から3か月以内に月額を見直します。だからこそ1期目は無理のない額で始めるのが安全です。上振れが見込まれる場合は、決議の前に試算しておきます。

株式会社タックスコム 代表取締役 山下健一

執筆|株式会社タックスコム 代表取締役

山下 健一

日本で唯一、税理士業界を3方向(お客様の声、帳簿の中身、事務所の内情)から見てきた税理士コンシェルジュ

税理士紹介を20年。税理士を探す社長の声を、今も聞き続けています。帳簿の中身は経理の代行で、事務所の内情は1,600名以上の所長面談で見てきました。税理士でも会計士でもない第三者だから話せる裏側を、お伝えします。

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