ワイキューブ安田佳生氏 Vol.1 『千円札は拾うな。』著者に聞く、ビジョンがない起業は成功しない
この記事は2006年に掲載した起業家インタビューです。制度や数値は掲載当時のものです。最新の手続きは各カテゴリーの記事をご覧ください。
ゲスト:安田 佳生(やすだ よしお) 株式会社ワイキューブ 代表取締役
株式会社リクルートを経て、1990年にワイキューブを設立。主に中小ベンチャー企業を対象に業績向上を目的とした経営・人材コンサルティング事業を展開。著書『千円札は拾うな。』(サンマーク出版)やメールマガジン『サルならわかる経営の真実』など、著作も多数。
学生の就職希望先として人気が高い株式会社ワイキューブ。オフィスにカフェやバーを併設するなど、常識をくつがえす福利厚生で話題を集めているが、その斬新な発想力は新卒採用、経営戦略のコンサルティング事業にも新たな風を吹き込み、多くの顧客から信頼を得ている。その豊富なアイデアの源はどこにあるのか? 代表取締役である安田佳生さんにじっくりと伺いました。
1. 大企業では対応できないニーズを探れ
山下:安田社長が起業したきっかけとワイキューブさんの設立の経緯について教えて頂けますか?
安田:私が独立してワイキューブを設立したのは25歳の時、平成2年ですから16年前ですね。最初は役員が5人だけ、まだ設立前の社名を決める時にいたっては3人だけだったんです。その3人全員の名前に“Y”がついていたのでワイキューブとしました。
山下:その5人の方とはどういった経緯で出会ったのですか?
安田:大学時代の先輩とリクルート時代の同期でした。
山下:最初、会社を立ち上げようと言い出したのは?
安田:僕が言い出しましたね。というのも、25歳で会社を作ろうと決めていたんです。大学の先輩には大学時代からそういった話をしていましたし、リクルート時代の同期は「神のご掲示だ」と勝手について来たんですよ(笑)。
山下:では、最初から会社で始める事業は決まっていたのですか?
安田:実はまったく決まっていませんでした。決まっていたのは社名だけ。マンションの1室を借りて、社名を決めて、名刺を作って、「俺たちは経営者だから、正月くらいはゆっくりしようよ」とか言いながら1月9日に初めてマンションに集まって……。そこで初めて「さぁ、何の事業を始めようか?」ということになったんです。
大橋:そうなんですか! 売上などのことは考えなかったんですか?
安田:その頃はまったく考えていませんでしたね、今はしっかり考えていますけど(笑)。若かったし、楽天家だったんです。とはいえ、1週間くらい経って、誰かが「来月の給料がもしかして出ないんじゃないか」と言い始めて、「これはマズイ」ということにようやくなったんです。このままでは来月の家賃も払えないという事実に気づいて、「とりあえず何かやろう」ということになり、最初に始めた事業が会社案内などのパンフレット制作でした。
大橋:それはリクルート時代に同じ事業をやっていて、すでにお客様を抱えていたからですか?
安田:お客様はいませんでしたね。リクルートで働いていた時にも入社案内を制作して欲しいという依頼を頂いていたのですが、リクルートは粗利益率がかなり高いビジネスをやっていたため、入社案内の制作は儲からないからやるなと言われていましたから。だから、リクルートではやれなかった事業だけど、ニーズがある入社案内の制作事業をやれば売れるだろうと思って始めました。
大橋:それで売上が伸びていったのですか?
安田:1,500万円くらいの売上が上がって、粗利益率は半分くらいありましたから、750万円くらいは残りました。これで2、3ヶ月は食べていけるなと思いましたね。
山下:安田社長にもその日暮らしの時代もあったんですね。ところで、起業当時を振り返って、起業家の方々にこれだけはやっておいた方が良いということがあれば教えてください。
安田:うーん、起業はやめておいた方がいいですね……っていうのは、嘘ですが(笑)。やっぱり目的意識が重要じゃないですか。社長になるとか、有名になるとか、上場させるとか、利益を出すとか、そういったこと以外での目的意識を持つことですね。
大橋:体験の中でこれがあればうまくいく、というようなことがありましたか?
安田:体験談とまではいかないのですが、目的意識がなかったことが苦労に繋がっているとは思いますね。やっぱり、社長になる人というのは弁護士や医師、警察官になる人とは違います。世の中を変えたいから政治家になる人、人の命を救いたいから医者になりたいという人はいるでしょう。でも、社長になりたい人って違うんですよ。彼らは欲から、つまり金銭欲、名誉欲、権力欲からなる人が多いんです。だから、僕の周りでもしっかりとした経営者というのは少ないなと感じます。
社会のためか、誰のためかはわかりませんが、ビジョンが崇高であればあるほど、人が集まり、それによって情報やお金が集ってきてうまくいくと思うんです。今まではお金や人脈があって、野心がある人が成功しましたけど、もうそういう時代ではないですよね。
山下:意欲はあっても資金繰りが大変という起業家の人も多いのですが、何かそういう人たちが売上をスムーズにあげるためのヒントなどはありますか?
安田:何を成し遂げないといけないのか、そのためにはどういうことをしなければいけないのか、という具体的なビジョンとスキル、その両方が必要なわけです。自分がスキルをつけるのか、もしくはスキルがないのであれば、その崇高なビジョンを説いて自分の代わりに営業ができたり、資金を集めることができる、そういう仲間を集めてこないといけない。仲間がついて来ないのであれば、その人のビジョンや熱意が足りないということですね。
山下:そのことに気がつかれたきっかけは?
安田:新幹線の中で突然ひらめいたんですよね。
大橋:何か突発的な出来事が新幹線の中であったんですか?
安田:いやー、まい泉のヒレカツ弁当を食べている時に気づきました(笑)。こういったひらめきを大事にしているんですよ。
山下:40、50歳になっても、自己顕示欲を追いかけている経営者もいらっしゃいますが……。
安田:私はもともとそういうタイプじゃなかったんですよ。おそらく自分でも無理してやっていたんでしょう。でも、これからは私たちみたいな考え方の会社が増えてくると思いますよ。
2. いい人材の共通要素は「やる気、成長意欲、素直さ」
大橋:ワイキューブさんは、人材育成や人材採用のコンサルティング事業を始めて、素晴らしい会社にご成長されていますが、どういった経緯でここまで事業を発展することができたのでしょうか?
安田:その話を始めたら3日間くらいかかりますが、いいですか?(笑)
大橋:うわぁー、3日間ですか! 時間が許すなら3日間ずっと聞きたいくらいですが、そこを手短に(笑)。
安田:それはですね、リクルートでは新卒の求人誌を売っていたのですが、ある会社が求人誌に広告を載せても掲載企業に人が来なかったんです。学生、つまり卒業する人の人数は40万人しかいないんですね。皆さんもリクルートブックという自宅に送付されてくる本をご覧になったことがあると思うのですが、バブルの頂点であの雑誌に掲載されている企業の採用予定数を合計すると卒業する学生の数の倍になるんです。ですから、見開きページ1,000万円の広告費を払っても、学生が説明会に3人しか来ないこともめずらしくない事態になってしまったんですよ。
そこで企業から、会社パンフレットを配ろうにも学生が来ないと配れないので、なんとか学生を動員してくれないかという要望があったんです。そこで学生の名簿リストを手に入れて、電話で呼び込むというビジネスを始めました。当時はまだ個人情報が売られていて。一人あたりの動員に対して文系で6万円、理系で9万円という価格でやっていましたね。それでも安すぎて「もしかしてさくらじゃないだろうな?」って言われてましたね。
山下:当時、一人当たり動員するのための相場はいくらくらいだったんですか?
安田:そもそも、そういうビジネス自体が存在していなかったので相場はなかったんです。500万円の広告を出して10人来たとして一人あたり50万円ですから、広告費と比較して換算すると安かったんだと思います。
その後景気が悪くなってしまうと、動員のニーズがドンドンとなくなってきました。代わりに「動員はできるけどいい人材を口説けない」「いい人材と思って採用はしてみたけれど期待した人ではなかった」という声が出てきました。つまり、いい人材を見抜ぬいて、口説きたい、という要望が出てきたんですね。そうして現在の事業に至ったというわけです。
山下:採用の段階でいい人材を見抜くポイントというのは各社共通ですか?
安田:半分は共通で、半分は会社によって違いますね。大体いい人材の共通部分は「やる気、成長意欲、素直さ」です。あとの残り半分は能力の適正です。営業をやるのか、デザインや企画をやるのかなど、職種によって必要とされるスキルや能力は違いますから。
山下:素直さなどを評価することは難しいと思うのですが……。例えば、その場で相手の話に同調することは誰でもできるとも思いますし、その場合、採用側にはこの人は素直な人のように見えてしまう気がしますが?
安田:回数を重ねていくとわかりますね。こちらの言うことを本当に理解して納得して頷いているなとか、ただ合わせて頷いているだけだなとか。ただ、その感覚を教えることは難しいです。こういう質問をして、こう答えたら、この人は素直だ、とマニュアル化することはできません。ですから、僕らはそこを見抜ける人を社内から発掘できるようにコンサルティングしています。わかる人にはわかりますから。
山下:なるほど。もともと能力を見抜く力を持っている資質やセンスをもっている人を社内から選んで、採用担当にしていくということですね。
インタビューの感想
安田社長はとても物腰も柔らかで、スタッフを心から信頼していることが話をしている中からも伝わってきました。今回是非起業を考えるみんさまに事業成功の秘訣をお伝えしたく、取材の機会をいただきました。 これからの起業には、本当にビジョンが欠かせないと感じました。 山下
